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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)1566号 判決 1989年5月31日

原告 中谷静代

右訴訟代理人弁護士 寺沢勝子

被告 株式会社 枚方近鉄百貨店

右代表者代表取締役 淺岡幸男

<ほか八名>

右九名訴訟代理人弁護士 樋口庄司

同 石田晶男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告らとの間において、昭和六二年一二月一二日になされた、別紙物件目録一記載の区分所有建物の共用部分である同目録三1記載の非常階段を倉庫に変更する旨の決議が無効であることを確認する。

2  被告らは、原告に対し、別紙物件目録一記載の区分所有建物に設置された同目録三2記載のコンクリートブロックを撤去せよ。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  第2、第3項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、枚方都市計画事業枚方市駅前市街地再開発事業に基づく権利変換処分により、別紙物件目録一記載の建物(以下、「本件ビル」という。)の八階にある同目録二記載の各建物(以下、「本件住宅」ともいう。)について区分所有権、本件ビルの共用部分につき共有持分権をそれぞれ取得した者である。

2  被告株式会社枚方近鉄百貨店(以下、「被告百貨店」という。)は、本件ビルの専有部分の一部について区分所有権および共有持分権、本件ビルの共用部分について共有持分権をそれぞれ取得した者であり、被告小山雅央、同向井きよ、同高津徳夫、同飯田喜代子、同村上義子、同村上優子、同白木文子および同紀本美智子(以上八名を合わせて「被告ら八名」という。)は、本件ビルの専有部分および共用部分についてそれぞれ共有持分権を取得した者である。

3  昭和六二年一二月一二日に開催された本件ビルの二号館集会(以下、「本件集会」という。)において、本件ビルの共用部分のうち別紙物件目録三1記載の各階の非常階段を倉庫に変更する旨の共用部分の変更に関する決議(以下、「本件決議」という。)がなされ、被告らは、右決議に基づき右非常階段の出入口に同目録三2記載のコンクリートブロック(以下、「本件ブロック」という。)を設置し、右非常階段を倉庫とした。

4  しかしながら、本件決議には、次のとおり瑕疵があり、無効である。

(一) 昭和五八年法律第五一号による改正後の建物の区分所有等に関する法律(以下、「新法」といい、右改正前の同法を「旧法」という。)一七条一項は、共用部分の変更は、区分所有者および議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決するものとし、区分所有者の定数を過半数にまで引き下げることを除き、規約で別段の定めをすることを認めていない。そして、右の区分所有者の数の数え方は、専有部分が数人の共有に属するときは共有者全員で一区分所有者と数えるべきであり、専有部分が数人の共有に属するときに議決権を行使する者一人を定めるべきことを規定する新法四〇条もこの数え方を前提としている。ところが、本件ビルの管理規約であるひらかたサンプラザ管理規約(以下、「本件規約」という。)は、専有部分の共有者各人を集会の構成員として個別に議決権を付与しているから、新法一七条一項に反し無効である。

(二) 本件ビルの専有部分は六個であり、住居である専有部分二個(家屋番号岡東町七五八番の五、同七五八番の六、以下、本件ビルの専有部分は、家屋番号の番号により表示する。)は原告の単独所有、店舗である専有部分のうち一個(七五八番の一)は被告らの共有、他の三個(七五八番の三、四、七)は被告百貨店の単独所有にそれぞれ属するから、共用部分の変更に関する集会決議の区分所有者の頭数は、原告を含めて二である。そして、原告は、本件集会において本件決議に反対した。

したがって、本件決議は、新法一七条一項で定める区分所有者の頭数の多数要件を満たしておらず無効である。

5  よって、原告は、被告らに対し、本件決議が無効であることの確認を求めるとともに、区分所有権または共有持分権に基づく妨害排除請求として本件ブロックの撤去を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否および主張

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  請求原因4について

(一) 同(一)のうち、本件規約がそのような議決権を付与していることは認め、その余の主張は争う。

(二) 同(二)前段のうち、本件ビルの専有部分が六個であり、原告がそのうち二個(七五八番の五、六)、被告百貨店がそのうち三個(七五八番の三、四、七)の各区分所有権を有し、その余の一個(七五八番の一)は被告らの共有に属することおよび原告が本件決議に反対したことは認め、その余は争う。同後段の主張は争う。

3(一)  本件ビルの管理または使用等に関しては、都市再開発法一三三条に基づき旧法二三条および新法三〇条一項の規約とみなされる本件規約が定められている。本件規約三一条一項は、「集会の議事は、本規約に別段の定めがない限り、当該集会の構成員及び議決権の各過半数で決する。」と定め、本件規約一四条一項は、「共用部分の変更は、当該共用部分の共有者をもって構成する集会の決議により決定する。ただし、共用部分の重要な変更については、当該集会の構成員及び議決権の各四分の三以上で決するものとする。」と定め、さらに本件規約二六条二項は、「前項の各集会の構成員及び各集会における区分所有権者の議決権は別表Ⅲのとおりとする。なお議決権は、専有部分の床面積の割合により定めるものとする。」と定めており、右別表は、本件ビルの集会の構成員およびその議決権に関して、被告百貨店〇・九五〇二、同飯田喜代子〇・〇〇五九、同小山雅央〇・〇〇五二、同紀本美智子〇・〇〇九三、同高津徳夫〇・〇〇三〇、同向井きよ〇・〇〇二九、同村上義子〇・〇〇八〇、同村上優子〇・〇〇三四、同白木文子〇・〇〇一八、原告〇・〇一〇三としている。

(二) 被告百貨店および原告のほかに、七五八番の一の共有者である被告ら八名が各自個別に議決権を付与されているのは、これらの者が右専有部分の共有者であるのみならず、本件ビル内にそれぞれ独立の店舗を設け、本件ビルの管理、使用につき独自の生活利益を有しているからであり、この状況は旧法時代から現在まで変化していない。したがって、本件規約の右各条項は新法のもとでも有効である。

(三) 本件集会の出席者は、原告および被告らの構成員全員で、本件決議に賛成の者は被告らで議決権〇・九八九七、反対の者は原告一名で議決権〇・〇一〇三であり、構成員および議決権の各四分の三以上が賛成しているから、本件決議は新法一七条一項に違反しない。

4(一)  本件ビル東側壁面内側には別紙図面三記載のとおり内部非常階段が、右壁面外側には別紙図面四記載のとおり外部非常階段がそれぞれ設置されており、右壁面の内外でいわば網の目を張り巡らしたようになっているから、特定の一つの非常口から非常階段に出れば、左右どちらの方向からも自由に地上に脱出することができる。

そして、今回倉庫とした内部非常階段は本件ビルの北隅に位置するもので、これが廃止されても被告らの店舗への来店客らや原告らの避難には影響がない。また、今回の変更は、建築基準法等の法令上の基準を満たしている。

(二) このように、今回の本件ビルの共用部分の変更は、物理的にはきわめて一部分の用途変更に止まり、機能的には従前と変化がなく、本件規約一四条一項但書の前記共用部分の重要な変更とはいえないから、本件決議は、本件規約一四条一項および新法一七条一項の多数要件に欠けるところはない。

三  被告らの主張に対する原告の認否および反論

1  被告らの主張3、4は争う。

2  本件ブロックの設置により、本件ビル東側壁面内外の非常階段の一部はその用途が変更され、被告百貨店が独占的排他的に使用する倉庫になったうえ、各階の北隅の非常階段がすべて閉鎖されたことにより、非常時には残りの非常階段を使用して避難する人数が確実に増加し、混乱が予想され、本件住居に居住する原告が高齢であることを合わせ考えると、本件ビルはきわめて危険な状態に至った。

したがって、今回の変更は、改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない変更ではなく、また共用部分の重要な変更ではないともいえない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》ならびに前記一の各事実を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  本件ビルは、ひらかたサンプラザ二号館の名称を有する地上八階、地下一階建の耐火構造の建物で、これに隣接するひらかたサンプラザ一号館、同三号館とともに、枚方都市計画事業枚方市駅前市街地再開発事業により建設された建物である。本件ビルは、七五八番の一、三ないし七の合計六個の専有部分と七五八番の二の守衛室等の共用部分から構成されており、専有部分の床面積は、七五八番の一が一四三三・三六平方メートル、七五八番の三、四、七の合計が一一二九一・二三平方メートル、七五八番の五、六の合計が一三二・七六平方メートルであり、これらの合計は、一二八五七・三五平方メートルである。

2  右の各専有部分のうち、七五八番の一は、被告らの共有に属し、七五八番の三、四、七、は、被告百貨店の単独所有に属し、七五八番の五、六は、原告の単独所有に属し、右の共用部分は原告および被告らの共有となっている。原告は本件ビルの八階にある七五八番の五、六(本件住居)に居住し、被告百貨店は七五八番の一、三、四、七にあたる本件ビルの地下一階から地上七階までを百貨店として使用し、被告ら八名は、七五八番の一にあたる本件ビル一階の一部に各自店舗用スペースを割り当てられ、自ら店舗を構えて営業したり、第三者にこれを賃貸する等して各自右専有部分の共有持分権を使用収益している。なお、右専有部分の共有持分権の割合は、被告百貨店〇・六四五九四〇、同飯田喜代子〇・〇五二八九五、同小山雅央〇・〇四六二八七、同紀本美智子〇・〇八三四三九、同高津徳夫〇・〇二六七九九、同向井きよ〇・〇二六〇四六、同村上義子〇・〇七一七五一、同村上優子〇・〇三〇七二一、同白木文子〇・〇一六一二二である(被告らが七五八番の一を共有していること、被告百貨店が七五八番の三、四、七を所有していること、原告が七五八番の五、六を所有していることは、いずれも当事者間に争いがない。)。

3  本件ビルおよびこれに隣接するひらかたサンプラザ一号館、同三号館ならびにこれらの建物の付属施設等に関しては、都市再開発法一三三条一項に基づき本件規約が定められ、昭和五一年三月二六日から施行されている。

本件規約二六条一項は、右の各建物の管理、使用、変更等を討議する集会の一つとして二号館に関する事項を扱う二号館集会を規定し、同条二項は、その構成員および議決権をその専有部分の床面積に応じ、原告〇・〇一〇三、被告百貨店〇・九五〇二、同飯田喜代子〇・〇五九、同小山雅央〇・〇〇五二、同紀本美智子〇・〇〇九三、同高津徳夫〇・〇〇三〇、同向井きよ(但し、本件規約の記載上は同人の被相続人である向井理喜。)〇・〇〇二九、同村上義子〇・〇〇八〇、同村上優子〇・〇〇三四、同白木文子〇・〇〇一八と規定し、原告および被告百貨店のほかに、七五八番の一の共有者である被告ら八名にも独立に二号館集会の構成員として議決権を付与している。そして、本件規約三一条一項は、集会の議事は、本件規約に別段の定めがない限り、当該集会の構成員および議決権の各過半数で決する旨規定し、同条二項は、右決議は書面または代理人によって行使することができる旨規定しており、他方、本件規約一四条一項は、共用部分の変更は、当該共用部分の共有者をもって構成する集会の決議により決定するが、共用部分の重要な変更については、当該集会の構成員および議決権の各四分の三以上で決する旨規定している(本件規約が被告ら八名にも右のとおり議決権を付与していることは、当事者間に争いがない。)。

4  被告百貨店、同飯田喜代子、同小山雅央、同紀本美智子、同高津徳夫および同向井きよは、昭和六二年一二月一日付けで新法三四条三項に基づき、本件ビルに関する新法二五条一項所定の管理者である枚方市街地開発株式会社に対し、共有部分の変更を会議の目的たる事項とし、本件ビルの共用部分である東側各階の非常階段の一部を倉庫とすることを議案の要領とする二号館集会(本件集会)の招集を請求し、右管理者は、同月四日頃原告および被告らに対し、本件集会の招集を通知し、同月一二日に代理人による出席も含めて原告および被告らが出席して本件集会が開催され、右議案について討議された結果、本件決議が行われ、原告が反対したほかは被告ら全員が右議案に賛成したので、右議案は可決された(原告が本件決議に反対したことは、当事者間に争いがない。)。

5  本件決議当時の本件ビル東側は、別紙図面三、四記載のとおり壁が二重になっており、その間に同図面一、三記載のように幅約一六〇センチメートルで北から南へ降下する内部非常階段が合わせて一二基あり、一階から七階にかけての各階東側には右内部非常階段に通ずる非常口が七か所ずつ(但し、一階は六か所。)設けられ、右内部非常階段には各階の中間付近と右の各非常口付近に踊場が設けられていた。他方、外壁の外側にも別紙図面一、四記載のように幅約一六〇センチメートルで南から北へ降下する外部非常階段が合わせて一二基あり、内部非常階段の踊場に接続して踊場が設けられ、外壁に設けられた開口部分を通じて内部非常階段の踊場と連絡できるようになっており、八階から外部非常階段に通ずる非常口が合計六か所、外部非常階段から地上に通ずる非常口が五か所それぞれ設けられていた。

被告らが本件決議に基づき行った工事により一階から七階にかけて、右内部非常階段のうち別紙図面三記載の赤の実線の位置に該当する場所(同図面二記載イおよびロの各点を直線で結ぶ線上)にコンクリート製の遮断壁が設けられるとともに、同図面四記載の外壁の開口部のうち黒斜線部分(同図面二記載ハおよびニの各点を直線で結ぶ線上)もコンクリートブロックで閉鎖された。こうして、各階の内部非常階段のうち最も北寄りの部分が被告百貨店の商品の倉庫とされ、右倉庫への出入りは二階から七階の各階の最も北寄りの内部非常階段へ通ずる非常口から行われることとなった。この結果、各階の内部非常階段および外部非常階段のうち別紙図面四記載の赤の点線部分よりも北側の部分は非常階段として使用できなくなったが、他の非常階段の使用には何ら支障はなく、もとより建築基準法および同法施行令等の法令に基づく安全基準にも合致している。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

三  原告は、本件決議は新法一七条一項に違反し、無効である旨主張するので、以下検討する。

1  本件規約は、昭和五八年法律第五一号による改正前の都市再開発法一三三条二項により旧法二三条一項の規約とみなされていたところ、昭和五八年法律第五一号附則九条一項により、新法三一条一項により定められた規約とみなされるから、本件ビル等の管理、使用、変更等に関しては、右附則九条二項により無効とされる部分を除き、本件規約がまず適用される。

2(一)  ところで、本件規約二六条二項および本件規約別表Ⅲは、前記のとおり専有部分の共有者に個別に議決権を与えているが、そもそも共有はあくまでも一個の所有権が各共有者に量的に分属している状態であり、当該共有持分権はあくまでも当該所有権内部の問題にすぎないことおよび新法四〇条は専有部分が数人の共有に属するときには区分所有者の数としては一であることを前提として、共有者が議決権を行使すべき者一人を定めなければならない旨規定していること等を合わせ考えれば、一つの専有部分を数人が共有している場合でも区分所有者の数としては一であって本件規約のように解すべきではない。そして、新法は、一七条一項、三一条一項および三九条一項等における集会の決議の多数要件として区分所有者の一定の頭数を要するものとしている。

(二)  そうすると、原告および被告百貨店のほかに専有部分の共有者に過ぎない被告ら八名を個別に二号館集会の構成員として議決権を与えている本件規約二六条二項および本件規約別表Ⅲは、その限りにおいて右の新法の各条項に反し無効であり、本件規約一四条一項、三一条一項等の構成員の数および議決権の内容は新法に従って決定されることとなる。

なお、被告らは、本件規約の右規定は、被告ら八名が本件ビル内にそれぞれ独立した店舗を設け、本件ビルの管理、使用につき独自の生活利益を有していることから設けられたものであり、右状況は旧法時代から今日まで変化していないから、新法のもとでも有効である旨主張するが、前記新法の規定の趣旨および共有の意義に照らし、採用できない。

(三)  そして、二号館集会の構成員は、七五八番の五、六の各区分所有者である原告、七五八番の三、四、七の各区分所有者である被告百貨店および七五八番の一の共有者の被告らの三名であり、右各構成員の議決権の割合は、新法三八条、一四条一項により右の構成員各自の専有部分の前記二1の床面積の割合によって決定されることとなる。

なお、原告は、被告百貨店は七五八番の三、四、七の各区分所有者であるとともに、七五八番の一の区分所有権を共有しているから、二号館集会の構成員としては、被告ら八名とは別個の構成員となり得ない旨主張するが、七五八番の二、四、七の各区分所有権と七五八番の一の区分所有権とが所有権の客体として別個に観念されるべきことは明らかであるうえ、前記新法四〇条の趣旨および共有の意義に照らし、採用できない。

3  そこで、右2の構成員数、持分権割合を前提として、本件決議が有効かどうかを判断する。

(一)  前記認定事実によれば、本件決議は、新法一七条一項所定の共用部分の変更を内容とするものであると認められる。

(二)  本件規約一四条一項および三一条一項は、共用部分の変更は当該共用部分の共有者をもって構成される集会における区分所有者および議決権の各過半数の決議により決定するものとしつつ、同項但書は、共用部分の重要な変更については当該集会の構成員および議決権の各四分の三以上で決するものと規定して当該共用部分の変更が重要であるかどうかにより、集会の決議の多数要件を区別しているが、右規定の趣旨ならびに新法および旧法の規定の内容等に鑑みれば、右本文の共用部分の変更とは、新法一七条一項所定の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの(いわゆる軽微変更)のみならず、広く共用部分の形状または効用を著しく変えることを含み、右但書の「共用部分の重要な変更」はきわめて重大な共用部分の形状または効用の著しい変更を意味するものと解される。他方、新法一七条一項は、改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除き、共用部分の変更は、原則として区分所有者および議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する旨規定し、区分所有者の数を規約で過半数まで減ずること以外の例外を認めない。

このように、本件規約一四条一項は、共用部分の変更と共用部分の重要な変更とで決議の多数要件を区別しているが、これは新法一七条一項但書と同様、建物の健全な維持を図るために合理的な共用部分の変更を促す趣旨であると考えられるから、区分所有者の数については、新法一七条一項但書所定の規約による別段の定めとして効力を認めるべきであり、ただ、議決権の多数要件については新法一七条一項本文に抵触する規定として無効と解する。

したがって、新法施行後における本件ビルの共用部分の変更の決議は、原則として、区分所有者の数の多数要件につき本件規約一四条一項本文、議決権の多数要件につき新法一七条一項本文にそれぞれ従うこととなる。

(三)  そこで、これを本件決議についてみるのに、前記認定事実、《証拠省略》を総合すれば、前記甲第三号証中の記載を勘案しても、本件決議は本件規約一四条一項但書の「共用部分の重要な変更」に該当しないものと認められるから、本件決議には、本件規約一四条一項本文および新法一七条一項が適用されることとなる。

(四)  そして、前記二2、4の各事実によれば、本件集会では代理人による出席を含めて原告および被告らが出席し、被告らが本件決議に賛成しているが、二号館集会の構成員についてみても、本件ビルの区分所有者三名全員が出席し、本件決議につき区分所有者の過半数以上の賛成および前記のとおり専有部分の床面積で決定される議決権の四分の三以上の賛成がそれぞれあったものと解されるから、本件決議は本件規約一四条一項本文および新法一七条一項に基づき有効に成立したものと認められる。

もっとも、新法四〇条は前記のとおり専有部分の共有者の中から議決権を行使すべき者一人を定めなければならない旨規定しているにもかかわらず、本件では右決定が行われずに七五八番の一の共有者である被告ら全員が出席して本件決議につき同一内容の議決権を行使したことが認められるから、本件決議にはこの点において瑕疵があるといわなければならない。

しかしながら、新法四〇条は、共有にかかる区分所有者の対外的な意思表示を一つに確定させ、意思表示が分かれるという混乱を防止するとともに、集会の際の事務の便宜上規定されたものと解されるところ、本件では結局被告らにおいて同一内容の意思が表明されたから、意思の矛盾ないし不統一はなく、実質的には七五八番の一の区分所有権全体としての意思表示がされたものと同視できる。そうすると、右瑕疵は、いまだ本件決議を無効とするほど重大であるとは認められない。

4  以上のとおり、本件決議は有効であるから、この無効確認とともに決議の無効を前提として本件ブロックの撤去を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。

四  よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 田中敦 黒野功久)

<以下省略>

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